「化ける」を辞書で引くと、第4義に「あるものが思いがけない変化を遂げる。俳優や相撲取りが突然うまくなったり、価格などが大きく変動したりする」とあり、「襲名して化けたようだ」、「株価が化ける」という例文が載っています。
レスナーをやっていると時折、若い人が「化ける」現場に立ち会うことがあり、レスナー冥利に尽きる思いをします。今日、久々にそんな経験をしました。化けたのは、レッスンを初めて1年ちょっとの高校3年生。彼女、ミュージカルをやりたいと言って入門してきたのが高校2年の11月。高校を出たら歌劇団の試験を受けると言うのですが、それまでダンスも歌も習ったことがないと言うので、どこまで力になれるか内心不安を抱えてレッスンを始めました。幸い、隣県から毎月レッスンに来て下さっているS先生がミュージカル系の生徒さんをたくさん見ておられるので、時々彼女のレッスンをお願いして導いて頂いてきましたが、夏休み頃のレッスンでS先生が「うまくなったね~。今の声なら音大に受かるよ。声楽科でしっかり基礎を学んでからミュージカルに行きなさい」と驚天動地のご提案。思いがけないお言葉に戸惑いながらも、彼女はそのお言葉に従ってS先生のお膝元である隣県の音大を受けることを決意。こちらも大慌てでコールユーブンゲンのレッスンなど始めました。
入試は2月。課題曲と自由曲を1曲ずつ歌わなくてはいけません。課題曲はともかく、自由曲を何にしようかと思案しました。何しろまだ声楽を初めて1年、基本のイタリア古典歌曲さえまだ数曲しかやっていません。とりあえずベッリーニの歌曲をやってみましたが、つい先日、ふとモーツァルトのオペラ「ドン・ジョヴァンニ」の中のツェルリーナのアリアはどうかな、と思って、チェチーリア・バルトリが歌っているYouTubeを聴いてもらったら、さすがにミュージカル愛好家だけあってオペラアリアも気に入ったようです。
それで、中2日しかありませんでしたが、たまたま今日がS先生のレッスン日だったので、この曲をみて頂くことに。私も伴奏として同伴しました。1回もレッスンしていない曲なので、当然ながら発音も音程も不完全、これはまだレッスン以前の段階だわと一瞬後悔。しかし次の瞬間「あれ?」と思いました。明らかに声が一段階成長しているのです。表現も、おぼつかないながらも何かを感じさせます。S先生も「これ、本当に初めて?」と仰って、「あなた、音大でしっかり勉強して、その後芸大に行くといい。いい先生がいるから、その先生に習うといい」とまで仰います。またまた思いがけないご提案に本人は目をぱちくり。でも、あながち単なる夢想とも言えない現実味を感じました。
先日も書きましたが、若さとは本当に素晴らしいものです。こんな大化けをするのも若さの特権ですね。