S先生のレッスン会を聴講していると、思いもかけないような話を聞かせて頂くことがあります。
例えば、尾瀬の景勝を美しく歌い上げた「夏の思い出」が、作曲者中田喜直氏の、偉大な父親に対する尊敬と嫉妬の入り混じった複雑な心境が昇華された曲であること、幼い日へのノスタルジーと受け止められがちな「この道」が、日露戦争を背景に、戦争を繰り返してしまう人間の愚かさに対する怒りから生まれていること。ヨハン・シュトラウスの「春の声」のあの華やぎは、寒くて暗い冬を過ごすウィーンっ子たちが春を待ち焦がれる気持ちであること。
他にもいろいろなお話がありましたが、作品にはすべからく背景があります。歌を歌う時、それを知ることで、その曲がぐっと身近になったり、違って見えてきたりするものですね。
レッスンとは、そういう知識を共有しながら新たな感じ方、歌い方を触発していくものなのだと実感しました。レスナーとしての貴重な学びでした。