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伴奏の意味

 3月の発表会でOさんがシューベルトの「音楽に寄す An die Musik」を歌われます。ドイツリートは伴奏がとても大事なので、昨日のレッスンでひとしきり伴奏談義となりました。
 シューベルトまではいわゆる「伴奏」の感じですが、これがシューマンになると、歌に伴走する伴奏ではなく、歌とのコラボレーションというか、デュエットの感じになります。ですからピアノが弾ければ伴奏ができるというわけではなく、ヨーロッパの音大には伴奏を専門に学ぶ専攻科があるぐらいです。
 「音楽に寄す」のテキストはシューベルトの親友だったショーバーが書いたもので、音楽に対して感謝の念を捧げるという内容になっています。人生には何度も苦難の時があるけれど、音楽はいつも心に寄り添って心を温め、その楽音で甘美で神聖な天上の時間を開示してくれる。そのことに心から感謝する、というのです。シューベルトの人生を思う時、何と見事に彼の心を代弁した詩だろうと感嘆せずにはおられませんが、私自身も若い頃にこの曲を知った時、本当に慰められ、心を鼓舞されました。

 とはいえ、当時の私がこの曲の素朴でかつ広やかな味わいを本当に理解していたとは言えません。詩は素晴らしいけれど、曲はあんまり面白くないなあ、というのが率直な感想でした。メロディの新奇さとか伴奏のテクニカルさが何もないので、退屈に感じたのです。若い時はえてしてそんなものですね。シューベルトの滋味が心にしみるようになったのは30代も半ばを過ぎてからです。そして今、シューベルトは私の大切な心の宝です。

 この曲の伴奏はきわめてシンプルです。右手は終始一貫8分音符の和音で刻まれ、まるで規則正しい心臓の鼓動のようだし、左手は歌のメロディを先取りし、また歌のフレーズをつなぎ、控えめに歌に寄り添い、歌と一体にメロディラインを形成しています。歌い手はつい歌のメロディを追うのに夢中になってしまいますが、リートは特に伴奏をよく聴き、伴奏と心ひとつに曲を歌いあげていくことが肝要。昨日は改めてそう思いました。

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