ハンガリーの作曲家で当代随一のピアニストでもあったフランツ・リストの作品に「愛の夢」と呼ばれる有名な曲があります。ピアノ曲として知られていますが、オリジナルはソプラノ独唱用の歌曲で、甘美なメロディが声楽家の心をそそります。 リストはドイツで活躍したので、この曲のテキストはドイツ語です。
昨日、Yさんがこの曲を歌いたいと仰ってレッスンに持ってこられました。ドイツ語がハードルだと言われていましたが、以前一度レッスンしたことがあるので、基本的な発音は理解しておられます。ただ、ドイツ語は子音をしっかり立てないといけないし、母音も日本語より深く発音するので、子音、母音ともに体をゆるめるヒマはありません。最初の「O lieb’, o lieb’, solang du lieben kannst!」という部分を発音に気を付けて歌うだけでもかなり体力を要したようで、「筋トレしなくちゃ」と言いながら帰られました。ちなみに、ここは「おお、愛し得る限り愛せよ!」という意味です。
Yさんは、以前私がリサイタルでこれを歌った時にプログラムに載せた歌詞対訳をもって来られて「この曲、歌詞が素晴らしいんですよね~」と仰っていました。フライリヒラートというあまり知られていない詩人の作品ですが、ここで歌詞をご紹介します。
O lieb’ , solang du lieben kannst! おお 愛しうる限り愛せよ!
O lieb’, solang du lieben magst! おお 思うさま愛せよ!
Die Stunde kommt, die Stunde kommt, やがて時は来る、
Wo du an Gräbern stehst und klagst! 墓の前に佇んで嘆く時が。
Und sorge, daß dein Herze glüht だから君の心が燃えるよう、
Und Liebe hegt und Liebe trägt, 愛を抱き、愛をはぐくむよう心を尽くすのだ、
Solang ihm noch ein ander Herz 彼の心が
In Liebe warm entgegenschlägt! 愛に満ちて暖かく脈打つ限り!
Und wer dir seine Brust erschließt, 君に心を開く人を
O tu ihm, was du kannst, zulieb’! 能う限り愛せよ!
Und mach’ ihm jede Stunde froh, その人を常に喜ばせよ、
Und mach ihm keine Stunde trüb! 決してその人の心を曇らせてはならない!
Und hüte deine Zunge wohl, そして口を慎みたまえ、
Bald ist ein böses Wort gesagt! 心無い言葉は口をついて出るものだ、
O Gott, es war nicht bös gemeint, おお神よ、悪気はなかったのです(と言っても)
Der andre aber geht und klagt. 人は嘆き、去ってゆくのだから。