1.体が重い時は声も重くなるものでしょうか?
以前、合唱団の連続講習会にお招きいただいた時のご感想の中に、「最近体が重いのですが、今日は練習の終わりに体が軽くなったような気がしました」というものがあり、続けて「体が重いと声も重くなるものでしょうか?」とお尋ねがありました。
「体が重い」というのは疲労感の表現だと思うのですが、これがなぜセミナーの後で解消していたかと言えば、おそらく「息を上へ抜く」、「そのために下半身の筋力を総動員する」という練習を繰り返したことで、全身の筋肉がバランスよく使われたこと、特に丹田に力が集まることで重心が安定したこと、そして何より、丹田の上にある太陽神経叢と呼ばれる自律神経の束や、脊椎の中を通っている自律神経の束に刺激が入って活性化したことで、体がシャキッとしたのではないでしょうか。
発声の面から言えば、全身の筋肉をバランスよく引っ張ることができないと息の抜けが悪くなり、声も上へ抜けません。そうすると声が喉のあたりにたまって声が重くなります。逆に言えば、息を上へ抜いて声を軽くすることで全身の筋肉がバランスよく使われるので、体も軽くなるということができます。
2.「呼気を吐き切ってから力を抜く」がうまくできません。
これはまず、全身の筋肉、特に上半身の緊張を緩めることが不可欠です。「ゆるめる」というのは、緊張型の人にはなかなか難しいので、逆にぎゅっと力を入れてから脱力する、というエクササイズを繰り返すといいでしょう。
①肩をぎゅーーっと竦めてしばらくキープし、一気に脱力する。
②後ろ手に指を組んで、両手首をくっつけたまま体から遠くへ離し、下腹を引っ込めて上体を反らし、しばらくキープして一気に脱力する。
③指を組んだ手で体の前に輪を作り、その中に頭を突っ込んで背中側をぐーっと後ろへ突き出すようにして肩甲骨の間を拡げる。しばらくキープして脱力する。
体を緊張させる時は息を吸いながら、脱力する時は息を吐きながらやります。息を止めてリキむと筋を傷めることがありますのでご注意。
3.息がすぐになくなってしまいます。
フレーズを歌い切る前に息がなくなってしまう、というお悩みもよく聞きます。ブレスコントロールの問題ですね。呼気を深く取り込んだ時、横隔膜は下がった状態になっています。この横隔膜が上がっていく時に肺から空気が出て行くわけです。そのスピードをできるだけゆっくりにする、横隔膜が上がっていくのを引き留める「補助呼気筋群」(横隔膜より下にある、腰回りの筋肉)や足を使って、下の方向に引っ張るような感覚で横隔膜と拮抗させて下さい。これがいわゆる「息の支え」です。
4.高音を出すと声がかすれます。
喉頭蓋が閉まって息が喉に溜まると、息が逆流して声帯が揺れ、声がかすれたり割れたりします。これを「抜けの悪い声」と言います。声は、息が声帯を抜けた瞬間に、垂直に上へと抜けていないといけません。つまり、息のスピードの問題です。無声音の「s」を長く伸ばす練習をして下さい。その時、呼気が垂直方向に頭のてっぺんから1メートルぐらい上に噴き出している、息の噴水をイメージして下さい。
また、声帯の閉じが悪いと声がかすれるので、軽いハミングで広い音程を行き来して声帯を柔らかく閉じて声を出す練習も良いでしょう。
5.高音域になると、息がうまく抜けません。
これも喉頭蓋が閉まって息が喉に溜まる、また声帯に力が入るのが原因でしょう。上体を折り曲げて下を向き、頭頂を下にして、つまり万有引力を利用して「ハッハッハッ」と腹圧をかけながら声を出し、それを続けながら上体を少しずつ起こす練習して下さい。声の響きが途中で変わらないように、腹圧をしっかりかけましょう。
6.年とともに声が低くなり、高音がスムーズに出なくなりました。
高音域が出にくいという質問はよくありますね。これは声帯を前に引っ張る筋肉(前筋)が十分に働いていないからです。筋肉が胸のまわりの筋肉が声帯筋の動きをサポートしているので、まずは胸を軽く張る。チェストアップする感じです。また、歳を取ると声帯粘膜が渇いてきて、くっつきが悪くなります。声帯をくっつけるための筋力も今まで以上に必要になります。歳を取れば取るほど筋肉が重要になってきますね。
7.上手にフェードアウト(デクレッシェンド)ができません。
これは最高度の技術です。声を延ばしているうちに息が下がってくるので、ppになるほど息を上げ続けなくてはいけません。それには呼気筋と吸気筋をバランスよく使うことです。背筋も使います。お腹をふくらませるように。体が縮こまってはいけません。体が広がっている状態で口の中、目の後ろ、喉などの空間を広くして後ろへ引っ張る感覚です。
8.中音域のヴィブラートをなおすにはどうしたらいいでしょうか。
ポップスを歌う方はヴィブラートを上手にかけたい、と思われますが、合唱の場合はヴィブラートがひどいと困ってしまいますね。
ヴィブラートの原因は息が下がっているからです。「加齢性ヴィブラート」などと言われますが、年齢とともに筋力が落ち、声帯のくっつきも悪くなると、息が胸に落ちてしまい、音程がわからなくなるほどひどく揺れることもあります。これはもう、息を高くすることを徹底的に練習することです。胸を張ったまま、無声音「s」を天井に向かって長く伸ばします。体が広がった状態で吸気筋を使って息を吐く練習です。また、下あごの力を抜いて下さい
9.息を吐いた後自然に息が入らず、呼気も短いのですが...
これは2.の質問と同じで、体が硬いからですね。息を吐いた後、体を緩めなければ息は入ってこないので、発声練習以前にストレッチが大事です。
呼気が短いのは、横隔膜と拮抗する補助呼気筋群の働きが弱いからです。丹田に力を集める意識を持って息を「吐き切る」練習をするといいでしょう。
10.発声のレッスンをいざ歌に応用しようとすると、うまくできません。
これもよくあるご相談です。歌になると、音程、リズム、発音、声量コントロールなど、様々な要素があるので、発声が崩れてしまうのですね。まずはハミングやリップロール、ヴォカリーズなどでゆっくり歌ってみます。次に、ワインコルクのようなものをくわえて、口の奥を広くしたまま歌ってみて下さい(歌詞はぼやけますが、それでOKです)。こうして口の中の広さを覚えてから歌詞をつけてみましょう。短いフレーズに切って練習していく方がいいと思います。
続きはまた明日。