「支え」って、何?
「お腹で支えて!」
声楽や合唱のレッスンでよく聞く言葉です。ドイツ語でもStützung、そのものずばり「支え」と表現するのですが、さて、この不思議な言葉は何を意味しているのでしょう?
そもそも「何を」支えるのか、「どうやって」支えるのか、このフレーズでは全然わかりませんよね(-_-;)私も昔、この意味不明な言葉にモヤモヤしました。「支えて!」と言われるたびにお腹に力を入れていたのを思い出します。
今日はこの「支え」について考えてみたいと思います。
何を支える?
何を支えるんですか、と先生に恐る恐る訊いたこともあります。すると「息を支える」とか「声を支える」と言われました。うーむ、ますますわからない(笑)。
オーストリアで参加したマスターコースで他の受講生のレッスンを聴講している時、講師の先生が「支え」に言及されました。そのレッスン風景を見ながらようやく少し謎が解けました。どうやら「支え」とは、呼気(吐く息)を長く持続することらしい、と。そのために、体中のさまざまな筋肉を動員して呼気と吸気のバランスを取ること、つまり「息をコントロールすること」なんだな、と。
どこで支える?
さて、日本では「お腹で支えて」とさんざん言われてきましたが、さて、お腹ねえ...(笑)。一体どうすれば「お腹で支える」ことができるのでしょう?
呼気を長く保持するとは、「息をいっぺんに吐かない、呼気をケチケチ使う」ということです。そのためには、吐くための筋肉(呼気筋)と吸うための筋肉(吸気筋)、この相反する動きを司る筋肉を同時に(拮抗させながら)使えばよいのです。
それでは、呼吸のための拮抗筋はと言うと、大きくは次の2つだと考えればよいでしょう。
1) 外肋間筋(吸気筋)ー内肋間筋(呼気筋)
2)横隔膜(吸気専門筋) ― 補助呼気筋群(腰筋、背筋、腹筋など)
胸を軽く張れば吸気筋が、フーっと溜息をつけば呼気筋が動きます。
あくびをすれば横隔膜が動いてぐーっと下に下がります。下がった横隔膜は元に戻りたがりますが、それを引き留める下腹や腰回り、下肢の筋肉などが「補助呼気筋群」です。横隔膜は一枚の大きな骨格筋ですが、補助呼気筋群の筋肉はそれぞれあまり大きな筋肉ではなく、共働して横隔膜が元に戻るのを引き留めます。
どうやって支える?
これはもう、全身的にバランスをとりながら、と言うしかありません。呼気を長く保持しようとしてお腹に力を入れても、それだけで支え切れるものではないのです。
そのためのエクササイズをご紹介しましょう。
エクササイズ
- うつ伏せになり、腰回りの筋肉を外側に開くように伸ばす。
- おおあくびをして、体中が開いた状態を数秒間保つ。
- アッハッハッハと高笑いをする。その声を伸ばしたり、スタッカートにしたりしてお腹の動きを観察する。
- 上体を腰の高さまで落として両手で椅子の背につかまり、腰回りの筋肉を外側に開き伸ばす。その姿勢をなるべく保持しながら「アー」と声を長く伸ばす。
- 深いため息をつきながら、動物のうなり声のような低い声を断続的に出す。その時に下腹部に軽く腹圧をかける。
呼吸に伴って全身の筋肉が連動するのがわかるようになるまで、根気よく練習しましょう。