声楽における「発声」とは、声の出る仕組みのことです。
息を声に変換するのは、喉仏の奥にある「声帯」という器官です。今日は声帯と、その上にある喉頭蓋について。
声帯の動きは複雑で、説明も理解もなかなか大変なので、必要最低限の知識だけをお伝えしたいと思います。
- 声帯は「閉じる」
声帯とは、喉仏の奥にある左右一対の小さな粘膜の隆起です。この声帯の内部に声帯筋や靭帯があります。
日本人の場合、多少の個人差はありますが、男性だと約12㎜、女性だと約9㎜、子どもは大人の半分ぐらいの長さで、声変わりの頃に急激に伸びます。
左右の声帯のスキマを「声門」と言います。この声門を息が通過するのですが、呼吸の時には声門が開き、声を出す時には閉じます。その閉じた声帯を呼気(吐く息)が通過する時に声帯が波動運動を起こして気流音を作ります。これが声の素で、喉頭原音と言います。
声帯が引っ張られて伸びれば高い声が、緩んで縮めば低い声が出ます。声帯を動かすのは声帯筋の働きですが、声を出すには、何はともあれ声帯を「閉じる」ことが第一歩。声を出そうとすれば、その瞬間に声帯は閉じます。普段しゃべる時にわざわざ「今から声を出そう」と意識することはないでしょうが、歌を歌う時には一瞬の準備が必要です。声帯に結節やポリープができると声帯がうまく閉じられず、かすれ声になります。
喉仏を指先で触りながら声を出してみると、声帯の振動が指先に伝わります。ちなみに、sとかtとかpなど、子音を発音しても声帯は振動しません。声帯は母音(ア、イ、ウ、エ、オ)で振動します。 - 喉頭蓋は「開ける」
さて、声を出す時には、声帯の上にある「喉頭蓋」というしゃもじ型の軟骨が連動します。形や付き方、動き方は昔の魔法瓶の蓋をイメージして頂くとわかりやすいです(今や骨董品?)。喉頭蓋の付け根は喉仏あたりです。指先で喉仏を触りながらあくびをすると、喉頭が下がりますが、この時、喉頭蓋は開いて(起き上がって)います。逆に何かを飲み込むと喉頭は上がりますが、この時、喉頭蓋は閉まっています。
なぜ喉頭蓋があるのかと言えば、人間は直立しているので、気管と食道が喉の下に縦に並んでいるからです。喉の下で2つの細長い筒が分岐していると思って下さい。手前が気管、後ろが食道です。食事の時、喉頭蓋は前から後ろに向かってパタンと倒れて声帯の上を覆い、飲み込んだ物を食道へと誘導しますが、しゃべる時や歌う時は喉頭蓋が開きますから、私たちは物を飲み込みながら同時にしゃべることはできません(むせてしまいます)。あくびの時は、喉頭蓋はほぼ垂直に立ち上がります。空気を最大限に取り込むためです。あくびをして喉頭蓋を立てたままハミングしてみましょう。そして、喉はそのままで小さな声で「アー」と発声してみましょう。あくび声が出てきますね。こうやって歌うのです。