,声楽はヨーロッパで生まれた「人の声による音楽」です。西洋音楽600年の伝統の中で、合唱、独唱、重唱、オペラ等々さまざまな「声楽」が発達してきました。特に、1601年にオペラが創始されて以来、広いホールの隅々にまでよく響く美しい声の出し方が研究され、時代とともに改良され、洗練されながら確立されました。
日本に西洋音楽が輸入されてから100年余り、声楽発声の基盤になっているヨーロッパ言語の音韻構造や、ヨーロッパ的な美意識などに対する私たちの理解はまだ十分とは言えません。無理なくよく響く発声を身につけるには、私たちと欧米人の骨格、筋肉、言語の違いまで視野に入れた解剖学的・生理学的な研究が必要でしょう。
一人ひとり顔が違うように声も一人ひとり違います。しかし発声法の基礎を正しく身につければ、その人の個性が出てきます。一人ひとりが個性的な声でありながらも、正しく開発された声どうしは斉唱でも重唱でも合唱でも美しく調和します。もちろん、レッスンの内容は個々に合わせたオーダーメイドでないといけませんが、ベーシックな方法はある程度共通しています。
ベル・カント
ベル・カントとは「美しい歌唱(法)」という意味のイタリア語で、オペラ創始以来イタリアで実践的に探求されてきた、歌手たちの発声技術の向上のための方法論です。17~18世紀にかけて発声法の原理や技術の体系が発達し、時代とともに改良され、確立してきました。今では「ベル・カント」という言葉は日本でもよく知られ、使われていますが、いくつかの流派があるようです。
一つは、声帯を十分に鍛えて強靭な喉を作り上げ、その声帯を徹底的に鳴らすことによって、インパクトの強い張りのある声を出す方法です。ただ、イタリアで学んだ北欧や日本の歌手たちがこの方法で喉を壊したという話をわりとよく聞きます(私の知人にも何人かいます)。声帯の強靭さには人種的な差や個人差があるようです。イタリア人は人種的に強靭な声帯を持っていると言われます。
これに対して、声帯に意識を向け過ぎず、あくび・ため息・笑いなど人間の生理現象を活用し、発声時に全身の筋肉をバランスよく使うことに意を用いて、空間全体を共鳴体にする方法があります。こちらは万人向きの発声法と言えるでしょう。
よい声とは
よい声とはどんな声のことなのか、言葉で整理してみましょう。
耳に心地よい声
つやのある声
遠くまで通る声
近くで聴いてもうるさくない声
張りのある若々しい声
広い音域を無理なく動ける声 etc…
いろいろに表現できるでしょうが、よい声を出すための基本的なポイントは「正しい呼気流の方向」と「よい共鳴」を身につけることです。
- 「息が続かない」のは息がモレているからです。
呼気(吐く息)が口から抜けたり、声帯がきちんと閉じていなかったり、筋力が弱くて呼気筋が優位になったりすると息が続きません。
- 「キンキン声」は共鳴不足です。
共鳴腔(喉と口)が狭いと硬質のキンキン声になります。子供の声が硬いのは、大人より体が小さい分、喉の空間も狭いからです。また、口腔が狭いと平べったい声になります。
- 「声が遠くまで届かない」のは下あごに力が入っているからです。
日本語は下あごに力の入る言語です。声は緊張しているところに集まるので、下あごが緊張していると声が下あごに集まり、遠くまで飛ばないのです。
- 「滑舌が悪い」、「発音不明瞭」の原因は、舌根が硬いことです。
下あごが硬いと舌根も硬くなります。そうすると舌がスムーズに動かないので、滑舌も悪くなるし、舌と唇で作る子音が甘くなるので発音が不明瞭になります。
続きはまた明日。