Nさんは県南の旅館の女将さんです。私の卒業した音大の先輩でもあり、コツコツと歌の勉強を続けながら、還暦を機に、旅館に併設されたホールで毎年サロンコンサートを開催してこられました。前回からは(コロナ禍の時世に鑑みて)大きなホールに場所を移し、今回は名称も「歌う女将のコンサート」と改め、最初のリサイタルから数えて12回目のリサイタルを昨日開催されました。
司会を務められた歌仲間のTさんが仰ったとおり、Nさんは周りのどなたに対しても愛を持って接する方です。歌には人柄が出ると言いますが、本当にその通り。Nさんの歌はハートウォーミングで、聴く人をゆったりと寛がせる独特の魅力を湛えています。今回は第1部が「心に花を」、第2部が「心に愛を」というテーマでしたが、選曲にもNさんの趣味が反映され、第1部では昔懐かしい「野ばら」や「庭の千草」などを、第2部ではイタリア古典歌曲やドイツリートから純粋な愛の歌を、深い共感をもって歌い上げられました。また、Nさんが所属する女声合唱団の皆さんがワンステージを務めて華を添えられ、歌って踊れるピアニストMさんの伴奏も、ピッタリとNさんに寄り添う見事なサポートぶりで、すべてが相俟ってとても心温まるひとときでした。お客様方も口々に「心が癒されました」、「安らぎました」、「いい時間でした」と仰っていました。
例年はコンサート前に旅館のお仕事が立て込むことが多く、いつもコンディション調整に苦戦しておられましたが、今年は体調管理がうまくいったようで、発声の面から見ても今までで一番良い演奏でした。声楽は技術の習得が難しいジャンルです。70歳を過ぎてなお向上し続けておられるのは驚くべきことです。これはNさんのあくなき向上心の賜物で、ただ敬服のほかありません。
特筆すべきはNさんのご家族のお支えです。ご主人を筆頭に、息子さんやお嫁さん、お身内の方々、お孫ちゃんたちまでがNさんを応援し、見守り、後押しして下さっています。その皆さんと終演後にテーブルを囲んでお食事をするのも毎年の楽しみです。今回は女声合唱団の指揮者の先生ともお近づきになれて、楽しいひとときでした。